居間の白い明かりの下、お帰りなさい、と八戒が微笑む。惰性で返事をしたけれど、少し酔いが冷めた。早朝と言ってもいいような時間だ。自室に直行するのも気まずく、俺は八戒の向かいに重い腰を下ろした。
「……寝てねえの?」
尋ねると、八戒は八戒で気まずそうな顔をした。
「何だか眠れなくて。……悟浄も何か飲みます?」
八戒の手元のマグカップには、真っ白な液体が湯気を立てていた。
「……んや、いーわ」
沈黙が落ちる。八戒が灰皿を差し出してきた。当たり前のように。
俺が煙草をじりじりと燃やしている間、八戒は牛乳か何かをこくこくと飲んでいる。
八戒が何時になるとも知れない俺の帰りを待ち構えていたことはないし、実際待っていた訳ではないんだろう。出来れば見せたくないところを見せてしまった、さっきのは明らかにそういう種類の苦笑だった。一瞬面倒に感じてしまったことを、少し、悪く思う。
「……煙草、好きなんですか?」
マグカップを手で包みながら、八戒が訊いた。よく見ると目が充血していて、妙な凄みがある。
「好きっつーか……昔っから吸ってるし、コレがねえとな」
「僕の服にもにおいがつくんですよねえ」
「……文句言われても禁煙はしねーぞ」
「いえ、そうじゃなくって。ただ、悟浄のにおいがつくなあって」
毒気を抜かれて八戒を見るが、いまいち真意が読めない。八戒はそこであくびをすると、自分の腕を枕にして机に伏した。
「……おい、八戒」
「……吸ってて下さい、煙草」
眠気混じりのふわふわした口調に、俺はつい言葉をなくした。程なく八戒は、あっさりと寝息を立て始める。
……俺に、どうしろって?
今ここで揺り起こして問い質したら、何かが変わってしまうんだろうか。
勿論そんなことが出来るはずもなく、俺は煙草を揉み消すと、手始めにマグカップの中味を飲み干した。