夢を見た。純白のウエディングドレスを着た私と、タキシード姿の悟能。ふたりでヴァージンロードを歩いている。おびただしい拍手が、私たちを包む。白い光が降り注ぐ。私たちの門出を祝福する、見知らぬ人たち。
目が覚めた。隣に悟能の姿はない。扉の向こうからは物音が聞こえた。きっと朝食の準備をしてくれているのだ。私は寝巻にカーディガンを羽織った。寝室の床はひんやりと冷たい。
「ああ、おはよう。そろそろ起こしに行こうと思ってたんだよ」
随分前から起きていたのだろう、悟能の口調ははきはきしていて、動作も機敏だ。私が何処かぼんやり座っていると、程なくテーブルの上にはトーストとハムエッグ、サラダとコーヒーが並んだ。
「……仕事は、どう?」
悟能は自分のカップにミルクを注いでいる。
「うーん、はじめてのことも多くて大変だけど、楽しいよ。すごく子どもが好きってこともないと思ってたんだけど、やっぱり懐いてもらえると可愛いし」
「私、悟能に向いてると思うわ、先生」
「そうかな。だといいんだけど」
「……私も早く仕事をみつけないと」
「僕たちは身元がしっかりしてないからね。僕のところは孤児も受け入れてるから理解してもらえたけど、この辺りだと女性は尚更、難しいと思うよ」
私はブラックのまま差し出されたコーヒーを口に運んだ。苦くて苦くて、幼い頃には到底良いとは思えなかった味だ。
「……何だか最近、ほっとしてるんだ」
カップを握り締めたまま、悟能が言った。
「花喃とこうして暮らし始めて、……僕みたいなのでも、普通に人間らしく生きていけるんじゃないかって」
「……そうね」
悟能の言いたいことは、よく解った。身寄りのない心細さ。人並みの生活を得ることの難しさ。貧しさ。差別。
私たちは弱い者同士、身を寄せ合って、慎ましく生きてゆこうとしている。いけないことをしているだろうか。
「……食べよ、悟能。せっかく作ってくれたのに、冷めちゃうわ」
「……そうだね」
笑い合って、目の前の皿に手を伸ばした。愛する人と摂る食事は、何て温かくて美味しいんだろう。
たとえ頼る人がいなくても、世間から認められるものでなくても。私たちの生活は、こんなにも尊い。