来ちゃいました、なんてボケなのか素なのかもわからないことを言って、八戒は俺の部屋に上がり込んだ。数年ぶりの再会だが、ぱっと見た瞬間の印象には透明感があって肌ツヤも良く、重ねたはずの年齢を全く感じさせない。相変わらずキレーな男。つい久しぶりの顔面を堪能していた俺に、八戒は手に持っていた白い箱を差し出した。
「これ三蔵に教えてもらったお店なんですけど、前から気になってたんですよね。ちょうど来る途中だったんで買ってきちゃいました。おすすめはエクレアだそうですよ」
いや、俺甘いの食わねえし。
別れてから何年も経ってる奴にわざわざそんなこと言いたくない。俺への手土産と称して自分の食いたいものを買ってくるのが八戒らしいような気もした。
勝手にキッチンに立とうとする八戒を制して、俺は二人分のコーヒーを淹れた。勿論インスタントだ。エクレアの箱を挟んで向かい合う。
さっきは上がり込んだ、と表現したが、まあ、招き入れたのとほぼ同義だ。何しに来た、とも訊かなかった。女と寝ることもあるが、八戒と別れてからはフリーのままだった。
「……何、オンナと別れた?」
まあヤりに来たんだろうと踏んで、率直に切り出した。直近の恋人と別れたら、前に付き合ってた奴のことを思い出すっていう、ありがちな奴。こいつも案外普通の男だよな、なんて我ながら人のいい感想を抱いた。それなのに。
「貴方あの時僕が言ったこと信じてたんですか?」
「……あァ?」
八戒が本気で意外そうな顔をするもんだから、思わず眉間に皺が寄る。
信じるも信じないもない。あれだけ一緒にいて、別れたがってることを気付きもしなかったマヌケな俺に、八戒は数年越しに追い討ちをかけた。
「オンナなんて出来てませんよ」
「……」
「……出来てません」
そうだ。あの時も、こいつ、こんな目で俺のこと見てた。
一体こいつは、何処まで俺をマヌケにすれば気が済むんだろう。
ものの数分で、筋金入りの面倒くささも、訳のわからねえ思考回路も思い出させてくれた八戒が、懐かしすぎて言葉が出ない。ほんの少しの軽い絶望と共に、俺は箱の中身に手を伸ばした。
八戒の視線を感じながら、小ぶりのエクレアにかぶりつく。確かに皮はふわふわで、中のカスタードクリームはすっきりとした上品な甘さで、俺でも食えるくらいには美味かった。八戒の長い指先がエクレアをつかむのを、視界の端に捕らえる。
「……美味しいですね」
「……そーね」
ゆっくりと味わいながら咀嚼し、飲み込む。コーティングのチョコレートのほろ苦さが、舌の上に残った。