【おねがいキスして10題(1)】 お題配布元:確かに恋だった

02.内緒でキスして


 指に挟んだ煙草はまだ火をつけたばかりだ。トッキーの申し出は非喫煙者故に間が悪く、そして唐突だった。
「……それは……ダメでしょー」
 内心の動揺を押し隠しながら、へらりと笑う。何でだよ、と口を尖らせるトッキーは可愛らしいけれども、はっきり言って不可解だ。
 キスしようぜ、滝さん。
「何でも何も……バレたら俺殺されるし」
「バレねえよ。俺が言わなきゃいいんだろ?」
 即座に返した目の前の彼は、誰が俺を殺すのかを十二分に理解している。愛されている自信、単純なノロケ、そして俺にかかるリスクを何とも思っていない人の悪さ、一撃のコンボが重すぎて言葉も出ない。
「……俺とすんの、嫌か?」
 真っ直ぐ俺をみつめる視線はそのままに、ほんの少し表情が揺らぐ。
 俺は煙の立つ煙草を、灰皿に置いた。
「……目、閉じてもらえる?」
 トッキーは一瞬目を見開くと、素直に瞼を下ろした。無防備に差し出された滑らかな頬、顎から首筋のライン。元気が取り柄の彼がそうしていると、艶気を帯びて見えるから不思議だ。触れ合う直前まで、俺は彼の薄い瞼を見ていた。
 ふに、と柔らかい感触。ただ重ねるだけでも気持ちいいけれど、俺は首を少し傾けて下唇を食んだ。逃げを打とうとする肩をつかんで、表面をしゃぶる。喉奥で漏れた声が、扇情的に鼓膜を刺激した。トッキーとしてはちゅ、で済むくらいの軽いのを想定していたのかもしれない。でも、やるからには味わわせてもらわないと割に合わない。こっちは命がけなんだから。
 舌を入れようと試みる。さすがにこれは頑なだ。深追いはせずに、俺は唇を離した。
 正直、俺は少なからず興奮していたのだが、望みを遂げた彼の顔は、思いのほかさっぱりしているように見えた。
「……違う」
「……何が?」
「久保ちゃんとするのと。やっぱ全然違うんだな。ありがと滝さん」
 んーっと縦に伸びをする。熟れた唇には卑猥さすら感じるのに、既に彼は、俺への興味を失っていた。
「……お役に立てて何より」
 意味の無い言葉が、惰性と意地でこぼれ落ちる。
 俺は吸いさしの煙草のことも忘れて、その清潔で危うい横顔をみつめていた。


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