その美しい目と髪を戒めの色だと告げたのも、もう随分昔のことのように思える。僕は近付いてくる彼の端正な目元や頬の傷や、そういったものに見惚れていた。
ゆっくりと唇が触れ合う。勿体ないような気がして目を瞑らずにいたら、悟浄も何故か目を開けていて、僕たちはキスをしたまま睨み合うような格好になった。柔らかな感触。ああ、こういうことをするのは本当に久しぶりだなと思う。悟浄が首を傾けて角度を変える。擦れ合う感覚ははっきりと性感を呼び、僕は喉を鳴らし、じわりと、滲んだ。
僕はほんの少し唇を開いた。そうすれば悟浄が舌を入れてくれるのではないかと思った。果たして、悟浄は僕を見たまま、するりと舌を挿入した。僕は従順なふりでそれに応えた。たっぷりと舌を絡め合い、悟浄の唾液を何度か飲んだ。僕は陶然と瞬きをした。いつまでもいつまでもこうしていられるような気がした。
「……逃げなくていーわけ」
至近距離でみつめ合ったまま、悟浄は何故かそんなことを訊いた。僕はほうっと息を吐いた。
「……逃げる理由がないので」
壁を背にしてはいるが、悟浄は僕の身体の何処にも触れていない。言葉で拒絶すれば無理強いされないことも予測出来た。けれど悟浄が目の前にいて、こんなにも近くにいて、触れ合っていないことを、僕は切なく感じていた。
僕は悟浄の髪を軽く梳き、傷のある頬に触れた。悟浄は目を細め、再び僕と唇を合わせた。瞼を伏せた彼を性懲りもなく観察して、やっぱり色男だなと思う。悟浄に倣って、今度は僕も目を閉じた。視界を遮断すると余計に感じる。キスの合間に、僕は隠さず声を漏らした。そういう自分を悟浄に見せたかった。悟浄が僕の腰を抱いた。それだけで膝が崩れ落ちて驚いた。悟浄の腕に支えられながら、僕たちは床に座り込んだ。
「……八戒」
「……はい」
「……俺と、付き合って」
てっきりこのまま突入するものと思っていたので、言葉にされたことも意外だったのだけれど。
「……すごいタイミングで言いますね」
「……ノリだと思われてもアレだしよ。言っとかないと、おまえ流しそうだし」
さすが、僕のことをよく解っている。と、もう一人の自分が何処かで感心していたが、実際僕にはほとんど余裕がなかった。悟浄にもっと触れたくて触れてほしくて、脳が沸騰しそうだ。
「……悟浄」
僕はただ彼の名を呼び、この場面でそれ以上焦らす悟浄ではなかった。悟浄が欲情を隠さずに僕に触れる。その事実が、どうしようもなく僕を追い上げた。
彼が入ってくる直前、僕は悟浄に好きです、と告げた。悟浄はとても優しい目をして、苦笑した。