【おねがいキスして10題(1)】 お題配布元:確かに恋だった

07.とろけるようなキスをして


 端的に言うと、これは媚薬ネタだ。
「悟浄、……僕を、抱いてくれませんか」
 八戒の声は震えている。それがヤバイ薬のせいなのか、発した言葉のせいなのかは分からない。
 二人部屋の宿の一室。シャワーを浴びて出て来たはずの八戒の様子は、明らかに挙動不審だった。無言でベッドにダイブし、熱っぽい溜め息を吐いたかと思えば、立ち上がり、左手で右腕を抱きながらもじもじと、狭い部屋の中をうろつき始める。隣のベッドで煙草を吸っていた俺は、どったの、と声をかけた。八戒は数秒硬直した後で、そろそろと、俺の正面に立った。
 目が合った時にぴんと来た。こういう顔は見慣れている。勿論八戒のそれを目の当たりにするのははじめてだったが。
 おまえもしかして、と多少遠慮しながら指摘した俺に、八戒はどうやら媚薬を飲まされてしまったらしいこと、つい今し方まで浴室で自慰に励み三回ほど射精したが、まるでおさまる気配が無いといったことを、赤裸々に白状した。
「……こんなこと、貴方にしか、頼めなくて。……無茶を言ってるのは、解ってるんですが」
 ははは、と漏らした苦笑いにすら、湿った吐息が混じっている。必死に平静を装おうとしているのが見て取れた。こいつが判断した通りだ。解決策は、一つしかない。
 躊躇いは特に無かった。俺は煙草を揉み消すと、立ち上がり、返事の代わりに八戒の頬に手を添えた。
「……悟浄」
 自分で言っておきながら目を丸くする八戒の唇を、ゆっくりと塞ぐ。媚薬の効果か、それだけで喉の奥から、んっ、と甘い声が漏れた。戸惑いに揺れる目を見届けて、瞼を下ろす。勿体ぶらずに舌を絡めた。
 優しく、しつこく、八戒の舌を誘う。この期に及んで逡巡を見せるのがどっちつかずのこいつらしいが、解放されたいのならそんなのは無意味だ。後頭部に指を伸ばし、うなじ、生え際、首筋、耳の後ろなんかを愛撫してやる。びくびくと身体を震わせる度に、徐々に力が抜けていくのが解った。
 腕の中に抱き寄せる。ついでに八戒の腕をつかんで、首の後ろに促した。もうこの時点で昂ぶった俺のモノが、八戒のモノと擦れ合う。
 八戒は弾かれたように俺を見た。かわいそうなくらい真っ赤な顔で。
「おまえが女だったら、俺に任せて楽にしとけって言いてえとこなんだけどよ。ま、手合わせ頼むわ。……お手柔らかにな」
 敢えて軽口を叩かず真面目に言ったのは、女ではなく八戒だったからだ。恥を忍んで俺なんかに身を委ねようとしている男への気遣いと、俺なりの友情。
 八戒は苦しそうに目を潤ませて、俺の首にすがりついた。


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