「それであっさり預かっちゃうところが悟浄ですよねえ」
感心と呆れのないまぜになった口調で、八戒が言う。
八戒が俺の家を訪れるのは大抵平日の昼下がりだ。今日も手土産の林檎を携えて勝手に台所に立つと、さくさく皮を剥いてテーブルの真ん中に置いた。
「別に俺が引き取る訳じゃねえよ。出張だとかで、一週間かそこらで帰ってくるらしいし」
「いえ期間の問題じゃあなくって」
八戒の口元で、みずみずしい林檎がしゃく、と音を立てる。俺は八戒が添えてくれたフォークは使わず、直に手に取って一口齧った。
「三蔵って、貴方にしては長く続いた人でしたよね。どのくらい付き合ってたんでしたっけ」
「……二年ちょい」
「大学卒業してからは一切連絡取ってなかった訳でしょう? もう無関係じゃないですか」
「そりゃ、まあ……でも修羅場ったとかでもねえし、結構円満にお別れしたのよ?」
口元をタオルで拭いながら、八戒が上目に俺を見た。
「フられたくせに」
「……よく覚えてんね、おまえ」
「実はまだ未練があるとか」
「……どーだろ」
素直に答えると、八戒は言葉を継ぐのをやめた。これも自分で用意した湯呑みで、静かに茶をすすり始める。
未練。
青臭くて馬鹿で必死だった、あの頃と同じではないにしても。