【1day1pict】 お題配布元:1day1pict

054.口笛を吹く


 悟浄が口笛を吹いてる。単純に上手いと思ったけど、聞き覚えはなかった。明るくてなだらかなメロディーが、夜の公園に密やかに響く。
「……それ、何の曲?」
「んー、何の曲ってこともねえな。思い付きで適当に」
 何でもないことのように悟浄が言う。器用なのだ。
 俺は地面を蹴っては着地することを繰り返していた。ブランコなんて乗るの何年ぶりだろう。前後に揺れる俺の横で、悟浄は窮屈そうに座っている。
 俺は三蔵のことが好きだった。そんでもって今日、ふられた。すごく真面目に、誠実に、断られた。告白した俺が「こっちこそごめん、気にしないで」とか言っちゃうくらいに。
 三蔵と別れて、一人になって。一番最初に浮かんだのが、悟浄の顔だった。
「しっかし、あーんな生臭坊主の何処がいいんだか」
 煙草を取り出しながら、悟浄が言う。
「悟浄だって、結構三蔵のこと好きだろ?」
「……サブイこと言うんじゃねーよ」
「だって美人じゃん」
「そりゃまあ、顔だけ見ればな? ……つーか、何おまえ、三蔵の顔が好きなの?」
「好きだよ。あんなキレイな人、俺見たことねえもん」
「キレイ、ね。まあ確かに」
 悟浄が煙を吐き出した。長い指に挟まれた煙草の先が、じんわりと赤く灯っている。
「……まあ、付き合うとかじゃなくてもよ。アイツがおまえのこと大事に思ってんのは間違いねえと思うけどな」
「……そんなの、解ってる」
 俺は地面を蹴っては着地することを繰り返した。晴れた夜空。オリオン座くらいなら、俺だって知ってる。
「……なあ、悟空」
「んー?」
「何で俺のこと呼んだの?」
 俺は上だけを見て、ブランコを揺らした。
「……悟浄しか、いなかったから」
「……ふーん?」
 語尾を上げた後で悟浄が黙るから、何か言い返したくなったけど、うまく思い浮かばなくて、やめた。
 悟浄を真似て、唇を突き出してみた。空気の抜ける音がするばっかりで、ちっともメロディーにならない。


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