端的に言うと、これは媚薬ネタだ。
「……あーもう……最っ悪……」
今夜の同室は八戒だった。もう寝ている頃合いだと踏んでいたのに生憎ベッドに腰掛けて文庫本なんか開いていて、「おや、今日は早いですね。……どうしました?」と即座に俺の顔色を読んだ。正直誤魔化す余裕もなく、酒場で盛られた迂闊さを白状すると、八戒は「……なるほど」と俺の顔をまじまじと見て、視線を下半身に移した。見るな。
悪ぃけど今からトイレに籠もるからおまえは寝といてくれ、と頼んだ俺に、目の前の親友はとんでもないことを言い放った。
「……僕がお相手しましょうか」
意味がわからなかった。本気で。
「……は?」
「僕、……その、ハジメテじゃないので。ご協力出来ることもあると思いますよ」
深く突っ込む気にはならなかった。色々あったんだろうこいつにも。そこじゃねえのよ問題は。
「……ありえねーだろ。ダチのこと犯せるかっつの」
言い捨てて、俺は八戒から視線を逸らした。こうしてる間にもぶちこみたくてぶちまけたくて、頭がくらくらする。八戒が冗談でこんなことを言う奴じゃないのは重々承知だった。いや勘弁してくれマジで。
八戒は、いきなり俺の手に指を絡ませてきた。俺はその手を、つい、振り払った。
「っ、ワリ」
「……悟浄」
八戒は少しも怯まず、振り払ったその手を、握った。
「ハジメテじゃないって言いましたけど、……正直、全くいい思い出ではなくて。……上書き、してもらえませんか」
俺も伊達に場数は踏んでない。微苦笑しながら言う八戒の目の奥に、確かに俺に対する欲があるのを、見間違えるはずもなかった。天を仰ぎたいような気持ちで、八戒を見る。
「……おまえ自分の言ってることわかってんの?」
「……わかってるつもりです」
八戒の二の腕を掴んだ。加減が出来なかったせいか、八戒は一瞬身体を強張らせたが、すぐに、たぶん意識的に、力を抜いた。
身体が熱い。
「……期待してくれてるとこ悪ぃけど、優しくする自信無えから。キツかったらマジで言って。殴ってもいーし」
八戒は微笑んで、俺の手の上に、そっと手を重ねた。
「……そうですね。その時は、お言葉に甘えて」
「……全力はやめろよ」