八戒が俺の上に乗り上げてくる。正直全然そんな気分にはなれなかったけど、あんまり必死な、不安そうな顔しやがるから、俺は一つ溜め息を吐いて、全身の力を抜いた。
八戒のしたいようにさせてやって、行為を終える。ベッドの縁に腰掛けて煙草をくわえた。いつもの小言は聞こえてこない。煙を吐き出す。
緩く髪が引かれる感触。身を起こした八戒が、後ろから俺の毛先を梳いていた。俺はやっぱり黙って、好きなようにさせてやる。
「……悟浄」
「あ?」
「……何処にも行かないで下さいね」
唐突かつ無茶苦茶な物言いだったが、俺は振り返らなかった。八戒の指先がうなじに触れたからだ。俺の視界には入らない、けれど確かにそこに浮かんでいる、紋様。
「……俺を置いていこうとしてた奴がよく言うぜ」
これくらいの嫌味は許されるだろう。何なら嫌味ですらない。でも俺は、こいつや三蔵と違って、正論で詰めるような真似をするのは趣味じゃない。
八戒の体温が離れる。
「……本当にすみませんでした。……でも」
寄る辺ないようで、芯の通った声。
「貴方を永遠に失うよりはマシだと思ったんです」
……まあ、そういうことなんだろう。
たとえ俺の気持ちを踏みにじっても、俺を死なせたくない。自分が耐えられないから。こいつが小難しくこねくり回して言ったのは、そういうことだ。
勝手に殺すな。聴けよ人の話。何でおまえが下向いてんだよ。俺の方がよっぽどカワイソーだろうが。
「……エゴ野郎」
「……返す言葉もありません」
俺は舌打ちして、八戒の顔を上げさせ、唇を奪った。別に乱暴にはしない、優しく丁寧に、しつこく、嘘の無い愛おしさを込めて。こいつのあらゆる面倒臭さを封じておとなしくさせるには、結局俺が長年培ってきたこの方法が、一番効果的だった。
「……俺の番」
煙草を消し、押し倒してそう言うと、八戒は少し驚いたように、俺を見上げた。
「……悟浄」
「もう俺のこと置いてこうなんて思わなくて済むようにしてやっからさ」
言葉だけは軽く、冗談めかして。
八戒が俺に精神的に依存してんのも、俺のことが好きで好きでどうしようもないのも解ってるのに、こんな時はまるで、俺の片想いみたいだ、と思う。
八戒が俺の首に腕を回す。声を震わせて小さく、はい、と答えた。