その場にへたり込んだ俺の目に、硬度を保ったままの久保ちゃんの姿が映る。久保ちゃんはやっぱりあっさりとパンツとジーパンを引き上げて、やや強引にジッパーを閉めた。
「……立てる?」
久保ちゃんが手を差し出してくる。俺は肩で息をしていた。その手は俺をひょいと持ち上げて、何故か俺は久保ちゃんの肩の上に担がれる。
「ちょっ、何すんだよっ」
「暴れないでよ。危ないから」
久保ちゃんはそのまま俺を脱衣所まで運び、風呂場の扉の前で下ろした。下半身を露出したままの俺に、普段通りの調子で言う。
「シャワー浴びるっしょ?」
そこで俺は、プツンと切れた。
「っ、馬鹿にすんなっ!!」
「してないよ。さっきちょっと中に出ちゃったから、ちゃんとした方がいい」
俺にさせてくれるんだったら俺が責任持ってやるけど、と久保ちゃんは俺が欲しい言葉とはまるで違うことを淡々と付け足す。
まるで違うことを。
自分の思考に我に返って、俺は久保ちゃんを見上げた。眼鏡の奥の目は、いつもと変わらないようにも見える。
「……おまえ、こんなことがしたかったのかよ」
苦い気持ちを押し殺して、俺は言う。胸が痛い。久保ちゃんは少し目を細めると、すぐ横の壁に肩を預けた。
「……そーね。コンナコトもしたかったけど、でも」
久保ちゃんは俺を見返して、柔らかく微笑んだ。
「本当は、もっと酷いことがしたいかな」
もっと酷いこと。久保ちゃんの言うそれが何なのか頭を巡らせてみたけれど、何も思い付かなかった。こいつの考えてることなんか俺には分からないし、分かったところでどうせ意味不明なんだ。
俺は久保ちゃんの胸倉を掴んで引き寄せて、唇を奪った。記憶の範囲では俺にとってのファーストキスで、何つーか、最悪のシチュエーションだ。よくわかんねえけど舌入れてみたら、久保ちゃんにしゃぶられてあっさり主導権が移る。煙草と久保ちゃんの味、濡れた音、はじめて味わう唇の感触。腰をなぞられてぞわりとした感覚が背中を走る。
唇を離すと、久保ちゃんはやんわり、けれど逃げ場を無くすように俺を押さえつけた。俺を後ろから犯すことしか出来なかった奴が、奪われないとキスも出来ないような奴が、やっと真正面から俺を見てる。今度こそぐちゃぐちゃにされるんだろう、俺は心の何処かで確信していた。
なあ、久保ちゃん。
本当は俺、おまえにだったら何されたっていいんだ。