【1day1pict】 お題配布元:1day1pict

283.視線に気づく


 山間の荒野広がる大地で、青空の下、八戒とふたりで立っていた。口に銜え、「おまえも吸う?」と差し出したハイライトを、ちょっと笑って、八戒が抜き取る。
「……実は僕、悟浄の煙草、時々拝借してたんですよね。……結構前から」
 俺の手元から火を点け、ごく自然に煙を吐き出す、その横顔。
「……まあ、堂に入ってるもんな、吸いっぷりが」
「気付いてたんでしょう?」
「……」
「貴方何も言ってくれないから、言い出すタイミング逃しちゃって」
 八戒は笑っていて、責める素振りはなかったが、それでも何となく恨みがましい口調だった。こいつがここまでわかりやすく甘えた態度を取るのは珍しい。ある意味、一つ、肩の荷が下りたのかもしれなかった。
「……別に、おまえが心配するコト何もねェから」
 俺は前を見ていた。八戒は口を挟まず、じっと俺を見て、続きを待っている。見なくてもわかる。俺に心を預けて、委ねて。俺の言葉を受け止める為の、あの目だ。
「……俺なんか、そん時そん時生きられる場所で生きてきただけでよ。行くとこなんかありゃしねぇし、帰る場所もねーんだよ」
 別に何処にも行かない。他に行きたいところもない。俺は死なないし、死なせない。敢えて自虐と絡めて、軽く口にした。八戒の精神を悲劇の渦中に置くような真似はしたくなかった。たとえ全てが伝わらなくても。
 言い淀む気配を感じて、八戒を見た。複雑そうな顔で、言葉を選ぶように、口を開く。
「……帰る家、あるじゃないですか」
「正直どーでもいいんだよな家とか」
「……そうなんですか?」
「おまえがあの家帰るんだったら帰ってもいい。……おまえどーすんの?」
 何か喫茶店やるんだっけ、その前に嫁さん探して結婚?てゆーかおまえの将来の展望しょっちゅう変わるしアテになんねぇよな。
 俺が言葉を続ける間に、八戒は目を丸くして、それから、やっぱりじっと、俺をみつめた。俺の名前を呼ぶ声が、ほんの少し、上擦っている。
「……悟浄」
「ん?」
「じゃあ、……じゃあ、……この旅が終わったら、その時に、……これからのこと、相談しましょうか」
 俺は大きく煙を吐き出した。
「そーすっか」
「……はい」


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