「……飲み足んなくてよ。ちょっと付き合わねえ?」
「……じゃあ、少しだけ」
夜中の二時だ。賭場帰りの俺と、もう寝ようとしていたであろう八戒。俺のわがままに、同居人の男はあっさりと頷いて、テーブルについた。
別に会話が弾むかっていうと、そういう訳でもない。ほとんどの時間が沈黙で、たまに思い出したようにぽつぽつと言葉を交わす。八戒がどう感じているかはわからないが、俺にとって、こういう過ごし方が出来る相手は貴重だった。
「……悟浄って、やっぱり優しいですよね」
俺が何本目かの煙草に火を点けたところで、八戒が言った。中身はザルだが、仕草だけは可愛らしく、グラスを両手で包んでいる。
「……何よ急に」
「ほら、この前、悟空をスキヤキに連れ出した時だとか」
「……猿が辛気くさいツラしてたら調子狂うだろーが」
「そんなあからさまに照れないで下さいよ」
「るせ」
「……僕を助けてくれた時もそうでしたけど、……悟空に対しても、すごく愛情深いんだなあって」
「……どーだかな」
八戒は表情で疑問符を投げかけたが、俺はそれには、応えなかった。
自分を救えないから、他人を救う。そうすれば、少し、報われる。
……何が報われるっていうんだろうな。そんなご立派な人生生きてねえっつーのに。
「またしたいですね、スキヤキ。皆で」
俺の態度をどう受け取ったものか、笑顔で、八戒は言う。
「そーね」
「今度はお肉ももっとたくさん買って」
「悟空の胃袋に合わせてたらどんだけあっても足りねっつの。あいつらマジで人の金だと思いやがって」
「いやあ、ごちそうさまでした」
「いーえこちらこそ。美味かったデス」
お粗末様でした、なんてふざけて会釈する八戒を見遣る。
よく笑うようになったよな、と思う。元の造形が整ってるからどんな顔してても美人だけど、特にこういう笑顔が、いい。
たぶん、助けて良かったんだろう。たぶん。後悔したことは一度も無いけど。
肺まで深く吸い込んで、煙を吐き出した。
「……そういやゆうべの奴も美味かったわ」
「じゃあまた作ります」
「頼むわ」