目の前に突然、幼い僕が現れた。現れたったら現れた。
「……おまえの子?」
「違いますね。心当たりがないですし」
「他人の空似かよ。それにしても似てんな」
「そもそも今何処から出て来ました?敵の幻術でしょうか」
「ガキん時のおまえ、こんな感じ?」
「それも違いますね。子どもの時の僕は……」
「ごじょう!」
幼い僕めいた生き物は、さっきから悟浄のことしか見ていない。目を輝かせて彼の名を呼んだかと思うと、無邪気に悟浄の脚に懐き始めた。
「……笑わない子どもだったので」
「へえ?」
敵の罠かもと忠告したにもかかわらず、悟浄は子どもの頭を優しく撫でた。子どもは撫でられるがままにされている。心から安らいだ表情で。
何だろう。ものすごく気分が悪い。
「……悟浄、あまり近付くと危険です。離れて」
「っ、はなれないで!」
まるでこの世の終わりみたいに、子どもは悟浄にしがみついた。その瞬間僕は、この子どもの正体を悟った。口を塞いでしまいたかったけれど、間に合わない。
「……一生僕と一緒にいてくれなきゃヤだ……」
そう言って、僕の顔をした小さな子どもは、静かに泣きだしたのだった。
あまりの事態に、僕は片手で顔面を覆った。到底この男に面と向かって言うべきセリフじゃない。勘のいい悟浄が、僕が気付いたことに気付かないとも思えない。
言葉をみつけられない僕を尻目に、悟浄は欠片も動揺を見せなかった。
「……別に泣くこたねーだろ」
その声音の不思議な軽さに引かれて、僕は悟浄を見た。不安に泣き濡れる子どもの涙を、長い指先で拭っている。
「俺たぶん、こいつに何度か会ったことあるし。今更じゃね?」
僕に向けた言葉を僕を見ずに言うそれは、どう考えても悟浄の優しさで、僕はたちまち肩の力が抜けてしまった。
「……えっと」
「ん?」
「……そうかもしれませんね」
僕なりに素直に答えると、現れた時と同じくらい唐突に、子どもの姿は霧散してしまった。手持ち無沙汰になって下ろされた悟浄の指先は、今この瞬間も、僕の心の襞を、何処までも優しく、撫でてくれている。