傷を舐め合う為に、あるいはもっと別の理由で、僕たちはこんな夜を繰り返した。三蔵の肌に刻まれた細かな傷跡は、彼が歩んできた道程の壮絶さをうかがわせる。そして僕の腹の傷跡もまた、逃れようのない過去の証だ。
「……雨、止まないですね」
裸のまま、僕は窓辺に立ってカーテンを開けた。ガラスに無数に付いた水滴が、夜の闇を滲ませる。三蔵は既に下着とジーンズを身につけて、煙草を銜えたところだった。
「……傷が痛むか」
僕の言葉に滲んだニュアンスを汲み取って、三蔵が言う。僕は少し笑った。ライターを擦る音と共に、煙草の先が赤く灯る。
「三蔵はもう、雨、平気ですか」
「……あ?」
「僕、平気じゃないんです」
乗り越えるとは、一体どういうことだろう。痛まなくなることだとしたら、僕の一部分は今も過去に置き去りのままだ。平気じゃない、というのは正確ではなく、ほとんどの場合平気だった。けれどぶりかえす。憎しみに目を奪われ、悲しみと後悔で眠れない夜がある。そんな心の隙間に、ひんやりと入り込んでくる、雨音。
三蔵が僕に示した光は鮮烈だった。彼自身が光のようでもある。しかし僕は、絶望が全てを無意味にすることも知っていた。つきまとう闇が濃い。時に、手に負えない程。
「いずれなかったことになる訳じゃねえからな。前向きだろうが、後ろ向きだろうが」
極淡々と、三蔵が言った。
「時間を重ねることで変わるもんもあるが、そうでないことだって幾らでもある」
「……そうですね。本当に」
「だが、おまえだけじゃない」
三蔵はちらりと目を上げ、またすぐに逸らして煙を吸った。僕はその様子に見惚れた。彼の横顔は、いつ見てもはっとする程綺麗だ。
「……俺に、汚れもの同士だと言ったのはおまえだろう」
三蔵の口元から吐き出された煙が、漂いながら天井へ昇ってゆく。
その声の調子は穏やかで、僕は三蔵の優しさに触れたことを知った。
「……そうでしたね」
雨の気配を感じながら、僕はそっとカーテンを引いた。
僕たちは業を背負っている。それは血を浴び、泥をかぶって、それでも生きるという業だ。たとえ何一つ救われなくても、答えなど出なくても、僕たちは進んでいく。
泥まみれの明日へ。