三蔵一行が突如閉じ込められた白い空間。壁の破壊を試みていた他三人に八戒が指し示したのは、意味不明かつ無慈悲な張り紙だった。
【セックスしないと出られない部屋】
「……野郎四人で何が何だって?」
頬の筋肉をひくつかせながら、悟浄が口火を切る。
「書いてある通りでしょう。一部例外もありますが、原則条件を満たさない限り僕らはこの部屋から出ることは出来ない。壁を壊そうとしても時間の無駄と相場が決まってます」
「ドコの相場だよドコの」
「え、でも俺ら、男しかいないじゃん?」
「ええ、ですから、……それこそが今回の趣旨なんじゃないかと」
八戒が言い終わらない内に、銃声が響く。こめかみに青筋を浮かび上がらせた三蔵だった。放たれた銃弾は、白い壁の中に吸い込まれていく。
「……無駄ですって三蔵」
「くだらねえっ!こんな悪趣味に付き合ってられるかっっ!!」
「今回ばかりは俺も三蔵様に一票だわ。マジでありえねえ」
息巻く派手組を上目に見ながら、悟空は不安げに口を開く。
「……でもさ、じゃあ、どうやって出たらいいんだ?」
悟空の問いかけを受け、八戒は僅かに目を細めた。
「やはり条件を飲むしかないと思います。……何を以てセックスとするかは、人それぞれなんでしょうが……『セックス』という言葉を用いる際の一般的な意図を考えると、……挿入行為は免れないんじゃないでしょうか」
八戒の冷静かつ容赦のない物言いに、全員が、静まり返る。
ほんの小さな溜め息を一つだけ吐いて、八戒は、男の名を呼んだ。
「……悟浄」
「……おまえマジで言ってんの?」
盛大に顔を顰めて悟浄が応じるのと、三蔵が眉を寄せるのが、同時だった。悟空だけがきょとんとしている。
「順当に考えた結果です。この際仕方ないでしょう」
「……おまえのその受け入れの早さ何なのよ」
「脱出する手立てが他にみつかる訳でもありませんから。さっさと済ませちゃいましょう」
しばし八戒をみつめた後で、悟浄は呆れと諦めの混じったような、深い息を吐いた。ようやく事態を飲み込んだ悟空が声を上げる。
「ええッ、悟浄と八戒でヤんの!?」
「……悟空。黙ってろ」
悟空を短くたしなめ、三蔵は八戒を正面から見る。
「八戒。……おまえはそれでいいのか」
気遣わしげな色を感じ取り、八戒は表情を緩めた。
「……まあ、じゃんけんで決めるようなことでもないですよ。貴方だってこんな部屋からは早く出たいでしょう?」
「三ちゃん俺は?」
悟浄の絡みを三蔵は華麗に無視した。
「……それじゃあ、三蔵と悟空は向こうの壁の方を向いて、あと耳を塞いでおいてもらえますか?こっ恥ずかしいんで。……行きましょう、悟浄」
三蔵悟空、八戒悟浄のコンビで、部屋の端と端に分かれる。三蔵はまだ戸惑っている様子の悟空の肩を促し、八戒がベッドの方へ向かうのを、悟浄が追う。
ベッドはキングサイズ。サイドテーブルにはゴムとローションが置かれている。
「……ご丁寧なこったな」
吐き捨てるような悟浄の言葉に、返りは無い。ベッドを前にして立ち止まった八戒を見遣って、悟浄は後ろを振り返った。三蔵悟空との距離は十メートルといったところか。
「……おまえさ、コッチの経験あんの?」
声を潜めて、悟浄が訊く。八戒は悟浄を見返し、ぽつりと言った。
「……ないです」
「ねえのかよ。……よくあんな啖呵キレんな」
ツッコミを入れはしたが、半ば予想の範疇でもあった。悟浄は肩を竦める。
「……いーぜ別に、俺が受けても。俺ガキん時に掘られたことあっからよ。処女じゃねーし?」
べろっと悟浄が舌を出す。こんな馬鹿げた状況でどっちがどうとも言い難いが、肉体的な負担だけを見れば、挿れる側になる方がマシに思えた。しかし悟浄の予想に反して、八戒は探るような目を向けてくる。
「挿れる方のご経験は?」
「……まあ。女だケド」
「だったら、貴方にリードしていただいた方が……僕としては色々と、ありがたいんですが」
殊勝なことを言う八戒と、視線を交わす。悟浄のせいにさせてくれ、ということだ。八戒の言外の意図を、悟浄は正確に汲み取った。こういう機微にはとことん敏い。
「……りょーかい」
一方。
「……さんぞー……何か俺までキンチョーしてきた……」
「……黙ってろっつっただろうが」