ボックス・ショウ おまけ


 それにしても、と悟浄は煙草に火をつける。
「……よくやるよなあ、おまえ」
 八戒が真っ先に名乗りをあげたことを、悟浄は指摘している。今こうしている間も三蔵と悟空を待たせている訳だが、マイペースに煙を吐き出す悟浄を、八戒は咎めなかった。
「……誰か一人が手を上げて、指名された相手はそれを受ける。この流れが一番後腐れも無くスムーズです。貴方だってそう思ったから、大して文句も言わずに僕の提案に乗ったんでしょう?」
「……そりゃまあよ」
 そうは言っても事が事だ。身体を張ることを厭わない八戒のガッツには恐れ入る。行き過ぎて自分を顧みていないことも多々あるが。
「……まあ、手を上げてみたはいいものの……」
 八戒はぽふっと音を立ててベッドに腰掛け、悟浄を見上げた。
「……悟浄、勃ちますか?僕とで」
 へらっとした笑顔に、弱気の影が見えた。悟浄は煙草を咥えたまま、敢えて八戒のすぐ隣に腰掛けた。膝が触れ合ったが、八戒は避けなかった。
「……まあ、イケんじゃね。おまえ美人だし。俺勃てんの得意だし?」
「……なるほど。普段から床上手だ何だとフカすだけのことはあるってことですね」
「褒めるか貶すかどっちかにしろよ」
「……まあ、貴方にとって不本意な行為なのは重々承知してますが、何とか宜しくお願いします」
「……怖えーって言うんなら今のうちだぜ?」
 前を見たままで、悟浄は煙を吐き出した。一瞬息を呑んだ気配が、横から伝わってくる。
「……バレました?」
「……まあ、怖えーだろ。フツーに」
「……すみません」
「……別にイーんじゃねえの。この際じゃんけんでも」
「……イイ訳ないでしょう」
「そうかあ?」
「……嫌ですよ。僕らはまだしも三蔵と悟空が当たっちゃったらどうするんです?しかも二人とも初体験でしょう。さすがに気が咎めます」
「……三蔵がマジでチェリーかどうかは俺知らねえけどな」
「……それに、貴方はさっき受けてもイイって言ってくれましたけど、正直この状況で勃たせて貴方に挿れる自信もないです。……貴方ならエロ河童ですし、どうにかお好きな女性を想像していただいて、……あ、バンダナで目隠しするのはどうですか?」
「……いやどーゆープレイよソレ」
 悟浄が煙草を白い床に落とし、足で揉み消す。その行為を呼び水にして、八戒はまた、男の名を呼んだ。
「……悟浄」
「……ん?」
「……優しくして下さい」
 囁くような、静かな声だった。悟浄の肩に、僅かに体重が乗る。
 参ったな、と、悟浄は思った。
「……まあ、惚れさせねェように気ィつけるわ」
「あはは。お手並み拝見しますよ、後学のために」
「言ってろよ」
 空気が解けたことに安堵して、八戒を見遣る。八戒は何故か自分の下半身に手を掛けていた。
「……じゃあとりあえず、下脱ぎますね」
「……あ?」
 潔い脱ぎっぷりで、瞬く間に引き締まった白い脚が露わになる。悟浄が呆気に取られている間に、八戒はその格好のままベッドに乗り上げ、サイドテーブルに置かれたローションに手を伸ばした。
「とりあえず僕の方に挿れられる状態にしないといけませんよね。ちょっと待って下さい、僕もハジメテなんで自信ないですけど、まあ、手先は器用な方なんで」
「……おい」
「大丈夫そうだったら声かけますから、その間悟浄も気持ちを高めておいてもらえますか?」
 コイツやっぱすげえな。
 と、思いはしても、いちいち口には出さない。深い呆れ混じりの舌打ちを一つして、悟浄もベッドに乗り上げた。寝技なら八戒相手でも負ける気はしなかった。速やかに身体を捕らえ、八戒の脚の間に腰を入れて、組み伏せる。
「っ、悟浄?」
「あのさ。……俺の好きにさしてくんね?」
 溜め息を吐きつつ、八戒を見下ろす。八戒は軽く目を見開き、ふっと視線を逸らした。
「……わかりました……」
 八戒の視界の外で、悟浄も目を見開いた。晒された首筋が、ほんのり紅く染まっている。
 いやいや。ここまでに照れるポイント色々あっただろ、と、ツッコミを入れたい気持ちもないではないが。
 悟浄は頭を掻くと、逸らされた八戒の目の前に顔を寄せた。八戒は戸惑ったように悟浄を見返す。
「……キスするんですか?」
「……キス無しでセックスとかありえねーだろ」
 そうなのか。意外だ、と八戒は思いかけて、いやそうでもないか、と思い直す。
 悟浄の意思の固さを察して、八戒は身体の力を抜いた。キスなんて久しぶりだ。悟浄の顔が近付いてくるのに合わせて、瞼を下ろす。柔らかい感触。要求されるまま唇を開いて、舌を絡めた。素直に気持ち良い、と思った。キスをしながら髪を撫でられる。こんな風にリードされる側になるのは不思議な感じがした。
 長いキスの後で悟浄は身を起こし、上着とタンクトップを脱ぎ捨てた。裸の下半身の間に、上半身裸の悟浄がいる。悟浄の手が襟元に掛かったところで、八戒は思わず声をあげた。
「っ、あの、悟浄」
「んー?」
「……何だかちょっと、恥ずかしいんですが……」
 結構、を「ちょっと」に言い換えて、訴える。呆れを隠さずに八戒を見下ろす悟浄の目には、既に雄の色が浮かんでいた。
「……もう遅えっつの」
 観念しろ、と軽い口調で、繊細な指先に絡め取られるのを感じる。悟浄の愛撫には迷いが無く、もしかしたら取り返しのつかないことをしてしまっているのかもしれないと、今更なことを八戒は思った。この後どんな顔で三蔵と悟空の前に現れればいいんだろう。
 ……まあ、いいか。後はもう悟浄に任せれば。
 投げやりなだけではなくそんなことを考えながら、八戒は悟浄の腕の中に身を委ねた。


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