貴方の海に満ちる月
- 31.(2024/06/20)
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悟浄総モテ現パロ、悟浄と悟空。
「……悟浄がはじめてセックスしたのっていつ?」「……あー……、……11。」「……マジ?」「……いやまあ、俺のは不可抗力っつーか……」「……何、フカコーリョクって」「……男にはヤんなきゃしょーがねえ場面てのがあんのよ。おまえもそういう場面で逃げ場なくなる前に、ちゃんと回避しろよ。あとゴムな。」「……よくわかんねえ」「好きでもねえヤツとそーゆー雰囲気になんねえように気ィつけろってことよ」「……んー、何となくわかったけど……それ悟浄が言うのかよ」「……まあそーなんだけどよ」
「……もし俺がホテル行ったらさ、マジで俺とヤる気だったの」「……ま、さくっと?」「……」「……ンな顔すんなら訊くなっつの」「……それって」「ん?」「……さくっと、って、……何すんの」「……エロガキ。」「……ガキじゃねえし。」
「……悪かったな、あん時」「俺はいーんだけどさ。結局あの後会いに行ったりしてねえんだろ?」「そーね」「三蔵言ってた。詳しいこと色々調べて居場所も突き止めたのに、ほとんど何も聞こうとしなかったって。わざわざ金払って捜したくせにって」「……ま、生きてんなら別にいーかと思ってよ」「……悟浄ってさ」「ん?」「……変わんねーよな、そーゆーとこ」
「……大体おまえ、大して運転しねェのに何で免許取ったのよ」「……悟浄が運転してんの見てたから、……何か、いいなあーと思って」「……なァにカワイーこと言ってんのよ」「……」「……黙んなっつの」
夜の国道を、道なりに真っ直ぐ。おそらくアテもない、何処まで進む気なのかもわからない、悟空のドライブ。「……ホントはさ、迷惑だったんじゃねえの?……三蔵のことも、俺のことも」静かに切り出す悟空。煙草を吸っている悟浄。「悟浄ってさ、何だかんだ俺らに気ィ遣ってんじゃん。悟浄の家なのに悟浄がいねえっておかしいし、今家にいるのだって八戒の為で、……俺らが来てから、やっぱ居心地悪かったんだろ?」「……」しばしの沈黙の後で、ゆっくりと、悟浄が口を開きます。「……まあ、1人の時間長かったし、ソッチが気楽ってのはあるけどよ。別にメーワクだとか思ったことねえよ。……それにおまえと会ってから、何だかんだ騒がしくて、昔のこととか思い出す暇もほとんど無かったしな」「……」「……八戒のことは、まあほっとけなかったってのもあるし、……おまえらに会わせたかったんだよな。仲良くやれんじゃねって、まあ、勘で?」「……三蔵と八戒、結構バチバチじゃね?」「アレはアレで気ィ合ってんだろ。ま、つれェよな、色男は」「……わざとじゃん」呆れたように顔を顰める悟空と、ちょっと笑う悟浄。「……悟空。次コンビニ寄って」
悟空編、もうちょい続きます。
しっぽり話してる悟浄と悟空が見てみたくて書きました!人間関係としてはこのふたりが最初で、三蔵と悟浄は悟空の紹介で知り合いました、っていう設定は結構最初の方から考えてあったんですが、なかなか入れるタイミングがなく……前回と今回で捻じ込んでみましたが。話のテンポ落とさずに過去設定出すのって難しい……。
- 32.(2024/06/29)
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悟浄総モテ現パロ、コンビニの駐車場。車内で缶コーヒー飲んでる悟浄と、肉まんにかぶりついてる悟空。「……つーかおまえさ、『俺だけ』とか言ってたけど、自分から三蔵たちの話してね?」「……そーだよなあ」一瞬手を止めて笑うと、また食べ始める悟空。「……俺やっぱ、今の感じ、結構好きなんだよな。……悟浄が三蔵好きになるのも解るし、八戒連れて来たのもすげえ悟浄だなって思うし、……俺と悟浄だけだった時間には、やっぱ戻れねェんだよなって、思った」「……」「でも、悟浄とふたりっきりでこんなゆっくり話したのすげえ久々だし、何か昔みたいで楽しかった。ありがとな」「……」「さんぞーはコイビトだし、八戒ともイチャイチャしてェんだろーけどさ。もうちょっと俺にも構ってよ」買い占めた肉まんやらチキンやらを次々に平らげる悟空を見ながら、悟浄が言います。「……おまえってさ、食欲に全振りしちまったんじゃねーの?」「……どーゆー意味?」「……」
悟空に乞われて、帰りの運転は悟浄が。助手席に納まった悟空が、悟浄の横顔を眺めながら、ぽつりと言います。「……悟浄ってさ、ブレーキ上手いよな」「……そりゃ、おまえ隣に乗っけてるからな」「……うわあ」「……ナニよ、うわあって」「誰にでもそーゆーこと言ってんだろ?」「……あのな。」呆れたように嘆息する悟浄。悟空が真顔になって、前方をみつめます。「……ホントは俺、俺じゃダメなんだって、ちゃんとわかってるよ」「……」「……だから、……ゴメン。」「……」しばしの沈黙の後で返ってきたのは、軽薄にすら聞こえる、悟浄の声。「……べっつにいーんじゃねェの?」「……え?」「おまえ俺のこと好きなんだろ?だったら別に、好きでいたらいーんじゃねえの」悟浄の表情を顧みても、悟空には真意が読めません。「……だって、迷惑だろ?」「ンなこと一言も言ってねーよ」「……でも、悟浄には三蔵がいるじゃん」「それとおまえの気持ちは関係ねえだろ」「そうかもしんねェけど……それ悟浄が言うのかよ」「……まあそーなんだけどよ」「……」黙りこくってしまう悟空。悟浄もそれ以上の言葉をかけることなく、運転を続けます。
家へと帰り着いたふたり。「……今日、サンキュな、悟浄」「……おー」短く告げて、あっさり車から降りる悟空。そんな悟空を追って、悟浄も車を降ります。玄関の鍵を差し込んでいると、背後から悟浄の声。「……なあ、悟空」「んー?」ドアノブを捻ろうとしたその手首を捕らえられて、振り向かされます。ナチュラルに扉に押し付けられて、悟浄を見上げる悟空。自分をみつめる悟浄の目の色にはっとして、咄嗟に逃れようとした肩を押されます。拘束されているのは片方の手首だけ、けれど肩を押したその手の力が思いの外強く、悟空は戦意を喪失しかけます。「……ちょっ、悟浄ッ!何してんだよっ!?」夜の玄関先で声を潜めながら、悟空が訴えます。密やかに笑う悟浄。「……おまえのタメになんねーコト。」堕落の入り混じった自嘲に、言葉を失う悟空。頬から顎のラインを指先で撫でられて、ぞわりとした感覚が走るのを自覚します。頭をもたげた何かが、悟浄に惹き付けられて、率直で誤魔化しようのない本能に突き上げられる。顔の横に突かれた悟浄の手。「ッ……タンマッッ!!」唇が触れ合う間際で、顔を逸らした悟空。悟浄が身体を少し離したのと同時に、膝を折り、腰をズルズルと沈ませます。離されなかった手首が、高い位置で縫い止められたまま。「……ンだよタンマって」ふっと鼻で笑って、悟空の足元の間の壁を、コツン、と爪先で蹴る悟浄。悟空の手首は掴んだまま、一緒にしゃがみ込んで、ヤンキー座り。至近距離で、悟空の顎を指先で持ち上げます。「……俺の勝ちってことでイイ?」確かに欲情に潤んだ悟浄の目を、信じられないような、嬉しいような、どうしようもなく切ないような気持ちで、悟空は見返します。悟浄と同じ、欲に濡れた目で。「……エロ河童ッ……」
続く!
足癖の悪い悟浄が好きなんです。あとこれチンピラに絡まれてた悟空を悟浄が助けたふたりの出会いの再現なんですけどね!多分書かないからここに書いとく!
- 33.(2024/07/01)
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悟浄総モテ現パロ、明くる日の夕食後。三蔵が厳かに口を開きます。「……悟空」「……何?」「悟浄とはヤるなっつっただろうが」いつになく神妙な顔つきで、目を落とす悟空。「……うん。ごめん。」そして平然としてる悟浄。「……謝んなっつの。あとヤってねーよ。寸止め」「黙ってろ節操なし」「だァから俺美食家だって」「そーゆー問題じゃないでしょう」食後のコーヒーを悟浄の前に置いた八戒が、さらりとツッコミを入れます。「……懲りませんね、貴方も」「……そーね」口端を上げて応える悟浄。視線を交わすふたりに、悟空が不満を漏らします。「……そのふたりで通じ合う奴やめろよなっ!」「……つける薬のねェバカどもは放っておけ」「ひでー言われようだな」「あれ、バカって僕も入ってるんですか?」「ってゆーか!!」思い詰めた調子で、悟空が吠えます。「全部悟浄のせいじゃんっ……!」「……」「……」三蔵と八戒から、何とも生ぬるい視線を送られる悟空。「……え、何?」特に反論もせず、静かに笑ってる悟浄。
続く。
- 34.(2024/07/05)
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悟浄総モテ現パロ、引き続き4人の時間。悟浄と三蔵は喫煙タイムです。「コイツ、うまくやってんだろ?」横に座る八戒を示しつつ、悟浄が訊きます。「……仕事が早いし話も早い。今は普通に雑務やらせてるが、自分で有能だと言うだけのことはあるな」「三蔵が電話に出るの面倒くさがるので、僕がいる時は僕が応対してますね」「適材適所だろうが」「相性ヨかったろ?」したり顔の悟浄に、三蔵が水を向けます。「……おまえは、ウチで正式に働く気はねェのか」その一言で、ちょっと空気が変わります。灰を落としつつ、答える悟浄。「……今でもたまに手伝ってんじゃん?案件ごとに駆り出してくれりゃあコッチもありがたーく請け負うからよ。三蔵様イロつけてくれるし?」「貴様は荒っぽいが仕事が早いし、メンドクセェ依頼人の懐柔が上手いからな」「そりゃどーも」「ウチは使える奴なら素行は問わねェよ」「ハハッ。コイツ男前っしょ?」「……」三蔵の視線を受けて、少し笑う悟浄。「……気持ちはありがてえんだけどよ」穏やかな口調ながら、それ以上の追及を許さない、ぴしゃりとした物言い。相対するふたりを、横からみつめる八戒。キッチンの方から、冷蔵庫が閉まる音が聞こえます。「……八戒、パピコ食べる?」「……あ、ありがとうございます」半分に分けたパピコのチョココーヒー味を吸い始める、悟空と八戒。「……おまえ、人に食いモン分け与えることとかあんの?」心底意外そうに言う悟浄を、嫌そうに見る悟空。「うっさいな、別にいーだろ!」「……アタリ強えーな」「八戒。こいつらいっつもこうだから。」「あ、はい」「……何でテメェが仕切ってんだ猿」三蔵の溜め息と共に、空気がほどけます。「……悟空」呼びかけたのは、悟浄の声。「おまえの好きにやりゃあいーんだって。……見ててやっからよ」表情を硬くした悟空が、悟浄の前に立ちます。悟空から飛んできた拳を、素手で受け止める悟浄。もしも悟空が本気で殴れば悟浄は吹っ飛ぶことを、悟浄は知っています。そして、悟空自身も。「……悟浄のバカ……」力無い悟空の拳を握りしめて、笑う悟浄。「……おめーもな。」おもむろに、八戒が立ち上がります。「……お酒にしましょうか」「お、いーね」「何かつまめるもの用意しますね」「……あ、八戒、俺も手伝う!」キッチンに立つ悟空と八戒、残された三蔵と悟浄。視線を向けてきた三蔵に悟浄がふっと笑いかけると、三蔵は睨むとも乞うともつかない表情で目を逸らし、小さく零します。「……馬鹿が」「……」悪態を吐こうが、目を逸らそうが、自分で自分を貶めようが。決して損なわれるとは思えない三蔵の在り方を、みつめる悟浄。
……なあ、三蔵。本当にキレイなモノって、何だと思う?
続く。
三蔵様頑張って!「見ててやっから」は、実はエロに使いたいフレーズだったんですけどね。ちょっとそこまではイケなかったです、残念。
- 35.(2024/07/19)
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悟浄総モテ現パロ、一人ベランダに出て、夜の空を見上げる八戒。ゆっくりと雲が流れていくのを、見るともなく、眺めています。「……風が出てきたな」背後から聞こえたのは、悟浄の声。振り向いた八戒の視線を気にした風でもなく、ごく自然に、八戒の横に立ちます。「……部屋に戻ったんじゃなかったんですか?」「んーまあ、おまえがもうちょい一人で飲むとか言うから」一度言葉を切って、煙草を取り出す悟浄。「……人生儚んでる頃じゃねェかと思ってよ」「……」何でもないように火を灯す悟浄を横目に、八戒が口を開きます。「……悟空のこと」「あ?」「ちょっと意外でした。……悟空のことは、大事にしているように見えたので」「……」軽口と同じ声音で、悟浄が返します。「……おめーもちょっとは大事にされたくなったかァ?俺に。」「……悟空を羨む権利なんて、僕にはありませんよ」「……そーゆーことじゃなくってよ」「……悟浄」穏やかに呼びかけて、悟浄の方へと、向き直る八戒。「……貴方が僕の為に心を砕いてくれたこと、理解しているつもりです。……本当に、ありがとうございました」頭を下げた八戒を、見下ろす悟浄。「……頭上げろって」「……」顔を上げた八戒の目に、迷いはありません。「……ここは、僕のいるべき場所ではないと思います」「……」「三蔵からいただいたお給料、使わずに取ってあるんです。まあ、三蔵から悟浄にお金が渡るだけなので、あまり意味はないのかもしれませんが……」「……そーゆーつもりで仕事させてたんじゃねェよ」「わかってます。でも、これだけお世話になって、僕の気が済まないので」「……世話になってんのは俺らの方だろ。おまえのおかげで美味い飯食えてるし、何か家ん中キレイになったし、……なーんか一緒に飯食うようになってるしよ」「……」「三蔵悪態吐いてっけど、助手みてえなことしてくれる奴が欲しいって前から言ってたんだよ。悟空もおまえ来てから、何かイイ顔になった。……アイツ、昔ちょっと色々あってよ。でもおまえには、心許してるみてぇだから」「……」「……ちゃんとおまえが、自分で作った居場所なんじゃねーの?」「……僕からも、一つだけ、いいですか?」真っ向から、悟浄に笑いかける八戒。「信じてもらえるかわかりませんが、……あの時、逃げるかって言ってくれたこと。……本当に、嬉しかったんです」「……」「そういう道だって選べる、自分の幸せの為に、自分の人生を生きるべきだって、頭では理解出来るんです。だけど、……だけど僕は、奪われたことも、自分自身の罪も、……どうしても、無かったことには出来ない」八戒の声が震えても、顔色一つ変えない悟浄。そんな悟浄の真っ直ぐな優しさを、胸が塞がる思いで、八戒はみつめます。「悟空には未来がある。その未来にはきっと、貴方が必要なんです。……ちゃんと、そばにいてあげて下さい」柔らかく諭すように、八戒が言います。小さく息を吐いて、肩の力を抜く悟浄。「……どーせ止めたって聞きゃあしねーんだよな、おまえ」「……すみません」「……悪かったな、諦め悪くてよ」置きっぱなしの灰皿に、煙草を押し付ける悟浄。「……悟浄」「……ん?」「抱いて下さい」微笑みを浮かべながら、八戒が告げます。まるで、約束の合図みたいに。「……無責任でいいんです。三蔵にも、悟空にも、絶対に言いません。ここにも二度と戻ってきません。だから」……同情を買ったのは、計算のつもりだったんだけどな。視界の縁を滲ませながら、八戒は思います。
……ああ、やっぱり駄目だ。貴方に抱き締められると、息苦しい。
続く。
- 36.(2024/08/04)
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悟浄総モテ現パロ、八戒。
……悟浄。もっとちゃんと、僕に触って。
ベッドの上で、ふわりと目を覚ます八戒。ひとりきりの気配を感じながらも、悟浄の姿を目で探して、少し落胆します。布団の外に投げ出された左手を持ち上げて、みつめる八戒。てのひらの向こうには、もう見慣れてしまった天井。……こんな風に安らかな気持ちで眠ったのは、いつぶりだろう。温かくて柔らかな、繭に包まれているみたいだった。まるで、……まるで、何も心配は要らないような。そんなことは、ありえないのに。朝方、悟浄の手が離れていったことは、覚えている。引き留めたくて、でもそれは、出来なかった。振りほどかれること以上に、その手を離したくないと思ってしまうことが、怖かった。……僕は、多分、幸せだった。
視線を滑らせて、時計の時刻を確認する八戒。……もうこんな時間か。皆とっくに起きてる時間だな。今まで僕が寝坊することはまずなかったから、変に思われるかもしれない。絶対に言わないなんて悟浄には言ったけれど、三蔵は鋭いし、今のこれを隠しおおせる自信も、正直ない。申し開きも出来ない。……どうせ悟浄はこんな時間に起きてはこないだろうから、僕はこの朝を攻略することだけ考えればいい。ふたりはもう、朝ご飯は食べただろうか。
身支度を整えて、居間に向かう八戒。部屋に入った途端、テーブルについていた三蔵と悟空の視線が、一斉に八戒に向けられます。「……八戒……」戸惑ったような悟空の声。ふたりの視線と雰囲気で、八戒は、直感します。「……悟浄は?」「……八戒」テーブルの上に置かれたメモを、三蔵が八戒の方へ向けて滑らせます。「……説明しろ。おまえの口から」
”三蔵、悟空 八戒のこと、頼む”
続く。
- 37.(2024/08/15)
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悟浄総モテ現パロ。「……マジで意味わかんねェ……」吐き出すように呟く悟空に視線を遣った後で、八戒に向き直る三蔵。「……携帯は部屋に置きっぱなしで、連絡の取りようが無ェ。おまえもわかってンだろうが、今までおまえに何も訊かなかったのは悟浄がいたからだ。心当たりがあるだろ。知ってることを話せ」「……すぐ帰ってくるかもしんねーじゃん……服とか、全部そのままなんだし」「……行き先も言わずに平気で一週間消えられる奴だぞ。ここにあるものに執着なんざある訳ねェだろ」「だけど!……悟浄は……」悟空の言葉の続きを待つ三蔵。口ごもる悟空。「……ッ、わかんねェけど……」「……三蔵」険しい表情をした八戒が、三蔵に詰め寄ります。「貴方、悟浄の行き先知ってるんじゃありませんか?」視線を交わすふたり。はっとしたように、ふたりを見る悟空。「…三蔵?」「……だとしたら、何だ」「教えて下さい」「知ってどうする」「追いかけるんです。早く止めないと、あの人が」「……俺は何も知らねえ。アイツが勝手にいなくなったんだよ」奇妙に落ち着き払った、それでいて投げやりな、三蔵の物言い。「……なるほど。それはつまり」薄く笑みを浮かべて、三蔵を見下げる八戒。「首輪を外されたのは貴方の方だってことですか?」三蔵が鋭く八戒を睨み付けます。「俺とアイツのことに貴様が口出すんじゃねぇよ……ッ!」「……ケンカすんなって……」力無く、二人をたしなめる悟空。「……つーか俺、全然わかんねーんだけど……。ふたりとも何か知ってんの?何も知らねーの俺だけ?」「……」三蔵が煙草を銜えます。「……別に俺は何も聞かされちゃいねーよ。だがあのバカの行動なら想像が付く。……てめえはさっきアイツを止めると言ったが、……おまえを止めることが出来ねェから、アイツはおまえを置いてここを出て行った。違うか」「……」「……おとなしく飼われておけと言ったはずだが、聞こえてなかったらしいな」今度は三蔵が、皮肉げな笑みを浮かべます。言葉を呑んで立ち尽くす八戒に、軽い溜め息を吐く三蔵。真っ直ぐな視線が、八戒を射抜きます。「……勘違いするな。別に俺はおまえが訳アリの未成年だろうが逃亡中の凶悪犯だろうがどうでもいいんだよ。悟浄の話をしろと言ってンだ。大体おまえがアイツに連れられてここに来た時から、どうせこうなることは解りきってたからな。てめえにとっちゃアイツが何しようがありがた迷惑、余計な世話だったかもしれんが、こうなった以上は、俺らにも話を通すのが筋ってモンじゃねえのか」「……」「……八戒……」目を落とし、ゆっくりと一つ、瞬きをする八戒。「……見ず知らずの僕をここに置いてくれたこと、僕をこの家の一員にしてくれたこと、……本当に感謝してます」「……御託はいい」「……悟浄は、多分、……僕の代わりに」ふたりの視線を感じながら、胸の内側で狂おしく巡るのは、悟浄の言葉。
『……じゃ、このまま逃げるか』
『気にすんな。……忘れろ』
「……僕の姉の仇を、……殺しに行ったんだと思います」
続く。
- 38.(2024/09/14)
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悟浄総モテ現パロ、エピソードの順番を予定と変更してお送りします。数年前、路地裏の、悟浄と三蔵。
視界から男の影が離れたかと思うと、次に目を引いたのは、紅い髪だった。驚く間もなく、悟浄はそいつをビルの壁に叩き付け、胸倉を掴んで、顔面を殴った。一瞬の躊躇も無かった。俺はコンクリートの地面に座り込んだまま、手を緩めることなく、男に暴力を振るい続ける悟浄を、呆然と眺めていた。限りなく殺意に近い怒りが、悟浄の全身を包んでいるのが解った。男の意識は既に無い。俺はようやく、声の上げ方を思い出す。「ッ……悟浄ッ!」胸倉を掴んでいた手が離され、男の身体が崩れ落ちた。地面に捨てた石ころか何かのように、悟浄がその頭を、靴底で踏みつける。「……ったく。汚ェ手で触んなよな」全くいつも通りの口ぶりで、全くいつも通りの、少し困ったような、気遣わしげな笑顔で。「……大丈夫か?」悟浄が俺に、手を差し伸べる。
あの日おまえが俺に見せたのは、紛れもない、おまえの血の色だった。
続く。
……久保ちゃんか龍ちゃんかみたいな設定で恐縮です。因みに付き合う前です。
- 39.(2024/09/25)
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悟浄総モテ現パロ、いつかの川縁の、悟浄と八戒。「……僕は施設育ちで、親の顔は覚えていません。生き別れの姉に再会したのは全くの偶然でした。顔がすごく似ているという訳でもないし、名前も知る前だったのに、この人が自分の片割れだとすぐに解った。……正直、運命を感じましたよ」柵にもたれ、前方をみつめながら、笑みをこぼす八戒。横に立つ八戒の気配を感じながら、相槌を打つでもなく、ただ煙草を吸っている悟浄。「高校を卒業したら、一緒に暮らそうって話してたんです。……姉は僕のことを、多分、……愛してくれていました」「……」「……僕には、姉の身に起きた理不尽が、理解出来ませんでした」「……」「どうして僕の大事な人がこんな目に遭わなければいけないのか、どうして訳の解らない悪意に傷付けられなければならないのか、どうしてこんなことで、僕と彼女の日常が奪われなければいけないのか」「……」「……きっと僕は心の何処かで、こんなことがあっていいはずがないと思っていた。……彼女の身に起きた現実を、本当の意味で受け止めきれずにいたんです」「……」「……」長く続く沈黙。前方を見たまま、ただ煙草を吸っている悟浄。「……僕は彼女を、……『被害者』にしてしまったんです」身を切るような痛みを滲ませて、八戒が吐露します。「……」「……そうやって自分の住む世界から切り離して、……僕を愛してくれた唯一の人を、……最後の最後に、独りにしてしまった」「……」頭を落とし、柵を強く掴む八戒。「……僕を殺して下さい……」
……愛情とか、そーゆーの、よくわかんねぇけど。でも俺はおまえが、諦めながら、微笑みながら、たったひとりで落っこちてくのを見るのが、どうしても嫌で。死んだ方がいいような奴は、確かにいる。だけどそれは、おまえじゃない。
「……悟浄とは、路上で客待ちをしている時に出会いました。僕が知らずにどなたかの縄張りに入ってしまっていて、柄の悪い方に連れていかれそうになったところを、……居合わせた悟浄が、話をつけてくれたんです」「……」「……そんなコトばっかしてんだよな、アイツ」悟空が少し笑います。厳かに、心なしか穏やかに、三蔵が口を開きます。「……本気で復讐を遂行したいなら、誰にも話さずに勝手にヤりゃあ良かっただろ。何でよりにもよって悟浄に話しちまったんだ」八戒も穏やかに答えます。「……正直、あの人をナメてました。あの人なら、たとえ僕が全てを話しても、……あの無関心な優しさで、僕を行かせてくれると思ったんです」「……」「……それに、これは言い訳に聞こえるかもしれませんが、……あの人にみつめられると、全部白状したくなるんです。……あの人にだけは、嘘を吐いてはいけない気がして」三人の間に、沈黙が落ちます。煙草の灰を落とす三蔵。灰皿の中に残っている、ハイライトの吸い殻。
『気にすんなよ、三蔵』
『……おまえが気にすることなんか何もねェから』
……悟浄。俺はただ。
続く。
- 40.(2024/11/01)
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悟浄総モテ現パロ続き。
暗闇の中で、貴方の声を聞いていた。ありのままの苦しみと、ありのままの、悲しみの中で。
「……おまえは何も知らなかった。頼まれてもいねえことをアイツが勝手にやって、おまえは迷惑している。そういう筋書きだろうな。……筋書きでもねェか。事実だな」「……」「……おまえの心情的な部分はともかく、復讐する対象がいなくなっちまえば、……少なくとも、おまえが手を汚す理由はなくなる」「……馬鹿なことを……」深い吐息混じりに吐き出す八戒に、淡々と、三蔵が言います。「……貴様にアイツのことが言えるのか」「……」「ちょっと待てってば。二人とも、悟浄が本当にヒトゴロシするかもって思ってんの?」動揺しながらも、訴えるように二人を見る悟空。「……さあな」「……さあなって……」「一つ屋根の下で暮らそうが何度寝ようが、わからねえモンはわからねえだろ。……大体、おまえも知ってんだろうが。おまえがヤらねえと思う理由は何だ」真っ直ぐに、悟空が視線を返します。「……俺と三蔵がいるから。」「……」真顔でみつめ合うふたり。その様子を前にして、八戒が、頭を下げます。「……悟浄のこと、巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした。……僕が必ず、悟浄をここに連れ戻しますから」短い静けさの後で、柔らかく降りてくる声。「……頭上げろって、八戒」はっとして顔を上げた八戒の視線の先で、悟空が、ちょっと困ったように笑っています。「てゆーかさ、悟浄が勝手に八戒のこと気に入って、お持ち帰りしてきたんだろ?別に八戒悪くねーじゃん」あっけらかんとした物言いに、八戒の肩の力が抜けます。「……そんな下心満載な感じではなかったですが……」「……八戒気付いてねーの?」「……と、言いますと」「そっか。とにかくさ、俺は八戒が来てくれて嬉しかったし、勝手なことしてんの悟浄なんだし、八戒が気にすることねえって。……三蔵が八戒に当たりキツイんじゃん?」水を向けられた三蔵が、眉間に皺を寄せます。「コイツは最初から悟浄に手出す気満々だっただろうが。事情はどうあれ、人の世話になるならなるなりの態度ってモンがあるだろ。それとも何か?八戒がカワイソウだから譲ってやれってのか」「……そうじゃねえけどさ……」「悟空。いいんです」強い視線を交わし合う、三蔵と八戒。やがて、先に目を伏せたのは、三蔵。「……それで、おまえはどうするんだ」もう一度視線を合わせて、三蔵が言います。「……別にアイツに義理立てする必要もねェだろ。おまえの遂げたい復讐に俺たちも悟浄も無関係だ。法や秩序に則れば止めるべきってことになるんだろうが、おまえの気持ちがどうしても浮かばれねえって言うんなら、腹括った人間一人、止める術なんかありゃしねえからな」「……三蔵」困惑したような悟空に構うことなく、三蔵は言葉を続けます。「まあだからこそ、アイツは実力行使に出たんだろうがな。……俺にはアイツの気が知れねェよ。大した熱烈さだと思わねえか」皮肉げな笑みを浮かべて、八戒を見据える三蔵。そんな三蔵をみつめる悟空。視線を受け止めて、今度は八戒が、そっと目を伏せます。「……正直、まだ色々、気持ちの整理がつかないんですが……今は、僕のことよりも、悟浄のことが心配です」「……どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだな」八戒の言葉をあっさり鼻で笑って、三蔵が告げます。「……アイツは自分の人生がどうなろうが何とも思っちゃいねえよ。……貴様と同じだ、八戒」
続く。
1ヶ月ぶりですね。ぶっちゃけ消耗が激しかったもので、休憩と充電がてらインプット祭りとかしてたんですが、またちょこちょこ書いていきます。三蔵は勿論、自分のことも馬鹿だと思ってますよ。
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