未来はバラ色かもしれないし、灰色かもしれないし、出口のない真っ暗闇かもしれない。願ったこともないし、憂えたこともない。それは心中した実の両親や俺を虐待して殺そうとした義母、俺を捨てて行方をくらました兄貴、裏切った悪友のせいかもしれないし、そんなのは特に関係ないのかもしれなかった。面倒臭いからとりあえず生きた。期待とか希望とか、俺には無縁で、どういう価値があるのかも分からなかった。そんな俺が、雨の夜、腸のはみ出た死にかけの男を拾う。
八戒は、姉であり恋人でもあった女を奪われ、大量殺戮を犯したという男だった。率直に言って、俺にはその激情が理解出来なかった。愛情やかけがえのない存在、奪われなければそこにあるはずだった温かな日常、そういったものが、やはり俺には無縁だった。ただ、苛烈な男だと思った。八戒の貫いた何かは、確かに俺の目にも鮮やかだった。
「それだけ好きだったってことなのかなあ」
いつだったか悟空が、俺の前でそんなことを言った。まだ知り合って間もない頃で、八戒はまあ、如何にも穏やかなお兄さんて風情だったし、「凶悪犯」のイメージとは一致しなかったんだろう。
「……そんないいもんじゃねえだろ」
この場に八戒がいなくて良かったと思う程度には、俺の言葉は冷淡だった。悟空ははっとしたように口を噤み、俺は我に返って小さく詫びた。
別に、八戒のしたことを批判したかった訳じゃない。ただ、悟空の読み方の「ずれ」が気になって、口を出さずにはいられなかった。俺は八戒のことを、結構ろくでもない男だと思っていた。勿論、それでも俺より百倍はマシなんだけど。
「悟浄。すみませんでした」
「……何が?」
「怪我人の時にご面倒をおかけしてしまったこととか。押しかけてしまったこととか。色々と」
「……別に。助けたのは、俺が勝手にしたことだし」
「でも、これから僕、貴方にすみませんって言わなきゃいけないこと、沢山すると思うので」
「……」
「宜しくお願いします」
へらりと八戒が笑うから、俺はおお、と答えた。それ以外に何を言えただろう。
見えもしない明日を語る八戒の目は、不思議な程深く、透き通っていた。