【月曜日のひとかけら】 お題配布元:インスタントカフェ

2.平日の昼間から


 健康優良児だった俺は風邪一つひかないのが自慢で、小中学校の時は皆勤賞で表彰された。勉強は得意な方じゃなかったけど、友だちがいっぱいいて、やりたいことも山ほどあって、毎日忙しかった。それががらりと変わったのは、高校に入ってから。イジメに遭った。理由は解らないし心当たりもない。もし殴られれば殴り返すし嫌なことを言われれば言い返してやれるのに、ただ俺の存在がそこに無いかのように、無視される日々が続いた。こんな陰険なことする奴らに負けてたまるかと思うのに、最近何だか、頭や腹が痛い。成績も落ちた。色んなことが、うまくいかなくなってた。
 今日だって「いってきます」を言って家を出たのに、どうしても足が学校の方に向かなくて。もういいんじゃないか。もう、頑張らなくていいんじゃないか。全部無駄な、どうでもいいことに思えて、そんな風に思う自分はもう自分じゃないような気がした。俺、こんな奴じゃなかったのに。
 学校さぼってゲーセンに来るのなんかはじめてだ。わくわくするというより、悪いことしてるみたいで気が滅入った。財布の中身を確認する。1488円。勿論使いきる訳にはいかないから、店内を見渡した。……とりあえず、喉渇いた。
 スペースの端に置かれた自販機に小銭をちゃらちゃらと投入する。130円の甘いカフェオレのボタンを押した。出てこない。
「……あれ」
 取り出し口を見たけど、何もない。手突っ込んでも、引っ掛かってる訳じゃない。マジか。
 店員さんを呼ぼうかと思ったけど、下手にこっちから声かけて「君、こんな時間に何してるの。学校は?」とか訊かれたら困る。俺結構年下に間違われるし。あーあ、本当ついてない。
「こんな時間に何してんの。学校は?」
 背後から聞こえた声に思わずびくりと肩を震わせて、俺は振り向いた。そこにいたのは背の高い派手なチンピラ。真っ赤な髪に銜え煙草のそいつは店員さんでも補導員でもなさそうだったけど、俺は瞬時にやべえと思った。絡まれたらどうしようどうやって逃げようと頭をフル回転させてたら、赤髪の男は俺の横に立って自販機に小銭を入れた。ボタンを押すとガコンと音がして、出てきた缶を取り出す。
「ほらよ。一緒に出てきた」
 チンピラが俺に差し出してきたのは、130円の甘いカフェオレだった。
「あ……ありがと」
 どもったのは親切にされて驚いたのもあるけど、うっかり見惚れてしまったからでもあった。よく見ると結構美形だ。
「小学生がこんな時間にこんなとこいたら補導されんぞ」
「小学生じゃねーし!」
 俺は思わず言い返した。久しぶりに大きい声を出した気がする。
 チンピラが口の端を上げて、ニヤリと笑った。


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