【月曜日のひとかけら】 お題配布元:インスタントカフェ

3.眠れると思った夜


 何度寝返りを繰り返しただろう。薄闇に慣れてしまった目を開けて、僕は嘆息した。枕元の時計は午前二時を回ったところで、電気を消してから一時間以上経っていることに気付かされる。最近はずっとこんな調子だ。身体も心も疲れきって、一刻も早く眠りに逃げ込みたいのに、目ばかり冴え冴えとして、睡魔は一向にやってくる気配がない。朝方になってようやく一、二時間程度の睡眠にありついて、重い頭を引きずりながら目を覚ます。明日もまた寝不足かと思うと、酷く気持ちが塞いだ。
 電気をつけて本でも読もうか。そんなことを考え始めたところで、呼び鈴が鳴った。僕はもう一度時計を見た。午前二時だ。
 玄関の扉を開けると、果たして、悟浄が立っていた。
「よお」
「……どうしたんですか、こんな時間に」
「俺のこと呼んだろ。着信あったぜ?」
 僕の困惑などお構いなしで、悟浄はさっさと靴を脱いで上がり込んでくる。
 確かに僕は悟浄に電話をかけたが、はじめから繋がるなどとは思っていないし、実際繋がらなかった。悟浄がそういう男だとは知っているので、僕にとっては孤独を確認する為の作業の一つでしかない。大体、電話した四時間後にこんな突撃されても。
「飲んでたんですか」
「てっきりお持ち帰りOKかと思ったのに、終電で帰るとか言われてさー」
「……なるほど」
 タクシー代が無いから泊めろということだ。僕が一人で納得していると、悟浄は何故か僕の頭をくしゃっと撫でた。
「おまえが壁側でいいぜ」
 上着だけ脱いだ悟浄は、早くもベッドに片脚をかけている。
「……じゃあもう僕床でいいですよ」
「だーめ。ほら、来いよ」
 いや、だからここは僕の部屋で僕のベッドなんですけど。
 心の中では思いながら、そもそも僕には文句を言う気力も大して残っていないのだった。素直にベッドに横たわると、続けて悟浄が向かい合わせになるように僕の身体を引き寄せてくる。首の下に、悟浄の二の腕。
「……何か、彼女みたいですね」
「おまえ冷え症だから」
「なるほど」
「……なるほどじゃねえだろ」
 僕は悟浄の切り返しを不思議に思ったが、悟浄がそれ以上喋らなかったので、僕も黙った。程なくして、悟浄の安らかな寝息が聞こえてくる。寝付きが良くて羨ましい。僕の目は相変わらず冴え冴えとして、一向に睡魔がやってくる気配はない。
 薄闇に慣れた目を開けて、悟浄の呼吸の気配や体温を、ただ、感じていた。


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