お題配布元:nancy,i love you.

踏みにじったそれをください


「貴方みたいなとんでもないお人好し見たことありませんよ」
 突然横で八戒が語気を荒らげ、俺は呆気に取られた。旅の途中立ち寄った街で、久しぶりにどーよ、と八戒を酒場に連れ出したのは俺だ。四人で過ごすことが圧倒的に多い道中、状況が許せばふたりきりで落ち着いた時間を共有したいという、暗黙の共通認識が俺たちにはあった。いいですね、と八戒も二つ返事で誘いに乗った。
 それで冒頭の台詞だ。大衆酒場を選んだのは八戒で、背景はそこそこうるさく、八戒の声が浮くことはなかった。俺は一応八戒の手元を確認する。ビールが、確か四杯目。このザルが酔う訳ない。正確には、酔ったことをわかりやすく表に出す訳がない。
 視線を落としながら続けた八戒の言葉は、ちょっと圧倒される程よどみなかった。
「僕は自分が貴方の優しさに報いることが出来る人間だなんて思ってません。でもどうせ貴方はほっといたら鷭里さんみたいな人にいいように利用されて、その辺でバカみたいに野垂れ死ぬんです。だったら僕が一緒にいる方がまだマシです」
「……バカみたいは余計だろ」
「少なくとも僕は絶対に貴方を死なせたりしません。……絶対に」
 顔を上げた八戒が、俺を見る。強気な言葉とは裏腹に、すがるような目だと思った。
「……熱烈……」
「……お嫌いですか」
「いや?」
 口端を上げる。八戒は視線を彷徨わせ、前に向き直った。
 肺まで深く入れて、煙を吐き出す。実際、ここまで明確に言葉にされなくても、自惚れじゃないと実感させられる機会は、多かった。
「……おまえでも、酔ったフリとかすンのな」
 しばらく沈黙を味わってから、俺は言った。真摯に言い募ってくれた八戒をからかうような物言いはあまりしたくなかったが、俺もまあ、多少、照れくさくて。
 珍しく拗ねたような口調で、八戒が零す。
「……僕だって、お酒の力を借りたいと思う時もありますよ」
「……覚えとくわ」
「……覚えといて下さい」
「ん」


■BACK