【音霊】 お題配布元:OSG

026.ドア ばたん!


 あれから五時間。時任は言葉を発することもなく、ずんずんと早歩きで家に到着したかと思うと、寝室に立て籠ってしまった。夕飯の時間になっても出て来ず、声をかけても返事がないので、俺は一人で昨日の残りのカレーを食べた。現在の時刻は午後十時。俺がソファーで寝ることになるのはいいとして、いい加減、お腹空いてるんじゃないだろうか。
 今日二度目、寝室のドアをノックした。
「……ときとー?」
 案の定返事はない。だけど起きている気配はする。
「お腹空いたでしょ。何もしないから、出ておいで」
 しんと静まり返った空間に、俺の無意味な呼びかけだけが響く。俺は時任に告げたことをすっかり後悔していた。余計なことを言ったせいで、一緒にゲームも出来なかったし、ご飯も一緒に食べられなかった。……もしかしたら、ここを出て行ってしまうかもしれない。
「……悪かった。本当は伝えるつもりなんかなかったんだ。俺が今日言ったことは、忘れていい。だから、これからもおまえの相方でいさせてくれる?」
 部屋の中で、人が動く気配がした。多分、このドア越し、すぐそこにいる。
「……何で謝るんだよ」
「……時任?」
「そういうのって、謝ったらダメだろ」
 時任らしい考えだ。声が聞こえた安堵も相まって、俺はドアをずるずると伝い、床に座り込んだ。煙草を銜えて、ライターを擦る。
「……何煙草吸ってんだよ」
「……え、ダメ?」
「俺は怒ってんだぞ」
「……うん」
「何で今までずっと黙ってたんだよ」
「だって、言ったらこうなるじゃない」
「……何で、忘れていいなんて言うんだよ」
「……おまえに避けられるの、辛いから」
 弱気になったココロが、素直なキモチを吐き出させる。けれど実際やってることは、友情につけこんで泣き落とし。自分の汚さに笑みが零れた。
 ばたん!
 勢いよくドアが開いた。背中の支えを失った俺は、部屋の内側に倒れ込む。数時間ぶりに見る時任が、真顔で俺を見下ろしていた。
「久保ちゃん、コンビニ行くぞ。財布持て」
「……はい」
 俺が時任に逆らえる訳もない。どうやらこれから引導を渡されるらしい。玄関に向かう時任の背中を見ながら、俺は静かに腹を括った。


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