「久保ちゃーん、日直終わったかー?」
時任の声はよく通る。教室の戸口に立つ、俺の相方。俺は黒板消しを置いて、軽く手を払った。
「ん。今終わったとこ」
「桂木、もう久保ちゃん帰っていいか?」
「……いいわよ。あんた達今日非番でしょ。日誌は私が持ってっとくから」
「ありがと桂木ちゃん」
桂木ちゃんは何か言いたそうな顔をしていて、けれど何も言わず、溜め息を吐いた。
時任が教室の中に入ってくる。
「お、すげえ。新品みたいじゃん」
言うが早いか、時任は白のチョークを手に取ると、如何にも時任らしい大胆さで文字を躍らせた。俺がたった今キレイにした黒板に。
俺様参上!
「あー……」
「俺様だけじゃ誰だか分かんないじゃない」
「俺様って言ったら宇宙のアイドル、この時任様しかいねえだろっ!?」
「……自意識過剰もここまで来るとアッパレね」
「つか、久保ちゃん何書いてんだよ」
時任とは対照的に、俺は黒板の隅っこで、愚にも付かない落書きをした。上向きの矢印のような形、先端にはハートマーク、そして「ときとう」と「くぼた」。
「……んー、相合傘?」
「……男ふたりで寒すぎんだろ、それ」
「じゃ、消しとこっか」
時任の反応は予想通りだ。俺は即座に黒板消しを手に取り、神経質に見えないように、けれど跡形も無く消し去った。
「桂木ちゃん、それ書き終わったなら俺が職員室持ってくよ。お詫びに」
その言葉の意味が横にいる時任に伝わるはずもないので、俺はやっぱり微笑んだ。桂木ちゃんは眉間に皺を寄せた怖い顔をしている。勿論、俺の捨て身のギャグが面白くなかったんだろう。ごめんね。