【音霊】 お題配布元:OSG

082.自動販売機


 当たり前のように奢らされてコンビニを出る。時任の好きなスニッカーズやカロリーメイト、他にも目新しいお菓子なんかを買い込んで、ねえ、ご飯は? 俺がそう尋ねると、カレー残ってんだろ、と時任が答えて、俺はうん、と頷いた。
 途中、自動販売機の前で立ち止まる。時任は小銭を入れて、たまたまコンビニで売り切れていたボスのカフェオレを買い足した。財布持ってきてるじゃない、とはツッコまない。せっかくなので、俺も缶コーヒーを買った。空を仰ぐ。
 少し歩いた先にある小さな公園のベンチに、俺と時任は並んで腰掛けた。昼間の暑さから一転、風が吹くとひんやりと涼しい。人一人分横に空いた距離が、もどかしい。
「言っとくけどさ、久保ちゃん」
 暗がりに、時任の声がくっきりと浮かぶ。
「俺と久保ちゃんはずっと相方だろ。ああいうこと、いちいち訊くなよな」
「……うん。ごめん」
「それと!……忘れていいとか、あんなん、忘れられる訳ねえじゃん」
「……うん。そーね」
「勝手なんだよ、久保ちゃんは」
 返す言葉もない。時任の調子は穏やかで、時任がもう、俺のことを許しているのが伝わってきた。それだけで充分だと思える。
 時任がプルトップを引き開けて、缶をあおる。俺はその、無防備な喉のラインを見ていた。
「……けど、何つーかさ」
 時任の声に、ほんの少し笑みが混じる。前を見据える横顔は、髪に隠れてよく見えない。
「おまえいっつもスカしてっから。……ああいう真剣なとこ見れて、何か新鮮で、ちょっと嬉しかったっつーか」
「……酷い言われようだなあ」
「久保ちゃん、俺とエロイことしたいのか?」
 時任の問いは簡潔で明快だ。今更誤魔化しても仕方がないので、俺は短く答えた。時任はそれきり、しばらく黙っていた。
「……久保ちゃん」
「……うん?」
「……寒いんだけど」
「……そーね。帰ろっか」
「じゃなくてっ!……おまえが離れて座るから、寒ぃんだよっ!!」
 困ったような照れたような顔で見上げられて、ちょっと固まってしまった。人一人分横に空いた距離。俺としては一応、気を遣ったつもりだったんだけど。
 ……えーっと。


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