「告白してみたらいいのに」
その極軽い口調に呼ばれて、俺は振り向いた。桂木ちゃんは日誌に目を落としたまま、淀みなくペンを走らせている。
7月。期末考査も終わり、夏休みを目前に控えた校内は、何処か浮足立っていた。教室には俺と桂木ちゃんの二人きりだ。時折生温い風が吹くと、視界の端でクリーム色のカーテンがふわりと舞った。
黒板消しを片手に、俺は端的に応じた。
「……何でまた」
「時任って久保田くんだったらあっさり受け入れちゃいそうじゃない。それに、時任だって久保田くんのこと好きなのかもしれないし」
「……それはどうかなあ」
俺は曖昧に笑って立ち尽くす。桂木ちゃんは、意外だとでも言うように肩を竦めた。
「弱気なのねえ」
「……俺、臆病者だから。このままでも、ジューブン」
いつものように、簡単に嘘を吐いた。少なからず本心でもあった。今の関係を不足だなんて思わない。俺の抱えているモノを昇華させる方法は幾つかあって、恋人という形になることが全てじゃないだろう。じゃあ、何処が嘘なのか。
「セックスしたいかどうかって、別問題だと思うんだよねえ、実際」
「……私はそこまで言ってないわよ」
「そこが要らないなら、ホントに、今のままが充分だから」
桂木ちゃんは目を見張り、少し、黙った。
「……久保田くんて」
「うん?」
「案外一途なのね」
「……それ褒めてる?」
桂木ちゃんが気付くことに何故時任は気付かないんだろう、そんな風に思いながら、気付かれたら俺は困るんだろう。変わるのが怖い。壊れるのが怖い。けれど壊してしまいたい。
開け放した窓の向こう、グラウンドで練習する野球部の打球音を、遠くに聞いた。